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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)100号 判決 1988年7月13日

控訴人(原告) 原輝恵 外三名

被控訴人(被告) 東京都目黒区長

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  (控訴人志甫菊枝・同原輝恵)

被控訴人は、原判決添付別表1記載の菅刈、東山、田道、不動、上目黒、五本木、月光原、向原、碑、大岡山東、大岡山西、自由が丘及び東根の住区住民会議に対し、同表委託事業欄記載の委託事業(但し、※印に対応するものを除く。)につき、委託料の支出を行ってはならない。

(控訴人阿部芳子・同柴田紀子)

被控訴人は、原判決添付別表1記載の住区住民会議に対し、同表補助事業欄記載の補助事業(但し、※印に対応するものを除く。)につき、補助金の交付をしてはならない。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人の答弁

主文一項と同旨

三  当時者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加し訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人ら

(一)  原判決七枚目表七行目の次に、行を替えて、「8 本件公金の支出は、区に回復の困難な損害を生ずるおそれがある。」と加え、同八行目の「8」を「9」と改める。

(二)  被控訴人は、本件各住区住民会議は各規約のとおり住区内の全住民を構成員とする団体であると主張しているが、控訴人らは、住区の住民全員を構成員とする住区住民会議なる団体(社団)は現実には存在せず、そのような虚無の団体への公金の支出は違法であると主張するものであり、これについての控訴人らの原審以来の主張の要旨は以下のとおりである。

(1) 権利能力なき社団といえるためには、団体としての組織を備え、多数決の原理が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体として主要な点が確定していることを要するとされている。

(2) 本件各住区住民会議の規約には、もっともらしく、総会をはじめ、事務を執行する実行委員会、常任委員会、部会、事務局等の規定があり、各機関役員、役職者の選任方法等も遺漏なく定められている。そして、その運営も表面的には大体規定に従って行われている。これらの点だけを見れば、本件各住区住民会議は立派な団体であり、社団性が認められよう。

(3) しかし、団体として最も重要である構成員については、規定上も現実的にも極めて瞹昧であり、住区の全住民を構成員とする趣旨の規定も実は住民中の一部有志を意味するものとすれば、それは虚構の規定であるから、構成員の規定としては無に等しいし、実体が住民中の一部有志の団体であるのに、規約に地区の全住民を構成員とするかのような規定を掲げることは、住区住民会議を公的な団体であるかのごとく見せかけるもので、公序良俗にも反するものである。

また、民法上の団体である以上、その構成員は、自己の意志により団体への参加意思を表明することが必要である。しかるに、被控訴人は、本件各住区住民会議の場合は「設立総会に出席して議事及び議決に参加すること」、「実行委員等を推薦すること」「住区住民会議が主催する種々の事業活動に参加すること」等によって参加意思の表明が認められるとしているが、これでは団体の構成員の特定としては無限定に等しい。

このような規約や実体しか持っていない団体は、人格なき社団又はこれに等しいものということはできないのである。

(4) ひっきよう、被控訴人は、区当局が積極的に介入して、地域住民全員を構成員とするとは単なるイメージばかりでその実質は一部不特定有志の集まりにすぎない住区住民会議なる組織を作り上げ、これを地域住民の代表的組織として押し通そうとするものであり、行政当局が、かかる団体を公的な団体として承認するのみならず、行政の補助的な機関として利用し、公金支出の対象とすることは、法律論からのみならず、市民道徳や治政の論理からも許されないところである。

2  被控訴人

控訴人らの右主張中、被控訴人が、本件各住区住民会議は、第一次的には、その各規約のとおりに、住区内の全住民を構成員とする団体であると主張していることは認めるが、その余は争う。

理由

一  当裁判所も、原審と同様に、本件各住区住民会議は、その成立の経緯、組織(規約の存在、総会に関する定め、代表者はじめ管理、運営及び経理を担当する機関・役員の定め並びに構成員に関する定め等)及びその活動状況等に照らし、権利能力なき社団(法人格のない社団)又はそれに等しいと評価し得る実体を有する団体であって、地方自治法二四四条の二第三項所定の公共的団体に該当すると認めるのが相当であり、これと異なる前提に立って本件公金の支出が違法であるという控訴人らの本訴請求は理由がないと認定判断するが、その理由は、いずれも原判決理由の説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

なお、右に引用した原判決理由説示に明らかなとおり、本件各住区住民会議の規約上、その構成員を住区内の住民と定めているのは、住区内の住民は誰でも希望により当該住区住民会議に参加し得るという開かれた組織であることを担保する趣旨であり、現実には住区内の全住民が本件各住区住民会議に参画するに至っているわけではなく、代表者はじめ役員らが中心となって事業活動を行っているのであるにしても、右構成員に関する規定が虚偽であるとか無に等しいとか又は違法であるとの控訴人らの主張は、いずれも失当であり(本件各住区住民会議が一部不特定有志の集まりであって、役員ら以外の住区内の住民を締め出すなど、開かれた組織と相反する実体を有するものと認めるに足りる証拠もない。)、採用することができない。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく本訴請求は棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 森綱郎 友納治夫 小林克已)

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